小池百合子さんの街頭演説を追いかけてみた(後編)

雨、風、怒号のなか、有権者でもないのに叫んだ。
まこ mako 2024.07.13
誰でも

小池さんの街頭演説に行ったのに、声は聞こえないわ姿は見えないわ騒然としてるわだったので、翌日も律儀に演説を聞きに行った。

6月30日 18時30分 JR蒲田駅西口

この日は1泊2日の選挙漫遊2日目。石丸さん、清水さん、安野さん、田母神さん(そして時々都議補選候補)の街頭演説を聞いて周り、漫遊のトリを飾るのは現職 小池さん。「トリ」と書いてみたのはいいが、日曜なのに小池さんの演説はこの1回キリしかなく、翌日の仕事に備えてもうちょっと早く新幹線で帰りたかったのにたまったものではないと思いながら、それでももう1度あのヒリヒリした演説を見にいきたかった。

石丸さんの演説後に中野で出会った都議補選候補のマエキタさん。チャーミングで楽しい演説だった!

石丸さんの演説後に中野で出会った都議補選候補のマエキタさん。チャーミングで楽しい演説だった!

前日、北千住の演説で出会った地元の選挙漫遊士のあきさん(仮名)とここさん(仮名)が、「北千住は30分前に着いたら前方で演説を見ることができた」と教えてくれたので、念のため1時間前に現地入り。夕方から少しずつ降り始めた雨がシトシトと音を立てる駅前広場は既に頑丈な柵で囲いが作られており、その周りの通路の軒先は雨宿りをする人で溢れていた。私も雨宿りしながら演説を聞きたかったが、前日の演説で警察がしつこく「通路に立つな」と圧力をかけていたため、確実に演説を聞くことを優先して柵の中に入ることにした。

柵の入口ではこの日も支援者と警備が荷物チェックと金属探知機によるボディチェックを実施していた。雨に濡れながらでもチェックは入念で、前日は腰回りだけだったのに、肩から脚から背中まで舐めるように金属探知機で検査された。演説を聞きにきた有権者は信用に足らない人物であると言われているようで、不快だった。

荷物チェックをする緑シャツの小池陣営と金属探知機でボディチェックをするSP

荷物チェックをする緑シャツの小池陣営と金属探知機でボディチェックをするSP

柵の中では、すでに30人程が雨の中演説を待っていた。「この人たち、何時から待ってるんだろう…」とちょっと引きつつ、最前列を確保できてホッとしていると、なんと目の前の通路をフリーランスライターの畠山理仁さんが通りかかった。「あっ!畠山さん!!」と声をかけるとお仕事中にも関わらず脚を止めて、新作のステッカーをプレゼントしてくださった。やったー!

さらに、畠山さんは「あそこに大和候補が演説に来てますよ」と柵の後方を指さして教えてくれた。「えっ、どこですか?」とキョロキョロしていると、「あっ、良かったら一緒に行きましょうか?」とおっしゃって下さったが、お仕事の邪魔をしたくなかったので丁重に辞退し、柵の外に大和さんの演説を探しに行った。

大和さんは、柵のすぐ外の軒下でたった1人、小さなスピーカーでひっそりと演説をしていた。おとなしそうな人で地声が小さい上に雨と風にスピーカーの音がかき消されてしまいほとんど聞こえなかったが、それでも真剣に話す姿に数名の聴衆が一生懸命耳を傾けていた。医師としての診療の合間を縫って真面目に選挙活動をしている大和さんは非常に気になる候補だったので、頑張っている姿を見れて嬉しかった。一緒に演説を聞いていた若い男性とおじいさんに話しかけると2人は「小池さんの警備はさすがにおかしい」と怒っていた。

雨風と戦いながらたった1人で演説する大和候補

雨風と戦いながらたった1人で演説する大和候補

大和さんにお礼を言って、再度入念なボディチェックを受け柵の中に戻った。駅と反対にあるアーケード側の最前列がまだ空いていたので場所を確保し演説を待っていると、北千住で出会ったあきさんとここさんも蒲田に駆けつけてくれて合流した。その間もどんどん警備は強固になっていき、通行規制は広がった。柵の外ではタクシーに乗りたい市民が困り果てて「どこに行けば良いのか」と警官に聞いていた。アーケード下にはプロテスターの市民たちが現れ、プラカを掲げながらしばしば「公約達成ゼロ小池」「ブラックボックス小池」と抗議の声をあげていた。小池さんが立つ街宣車は右手側のロータリーに停まっており、その後ろにあたる左手側はアーケードと交通量の多い交差点。「嫌な予感がする…」と話しながら、小池さんの到着を待った。

18時25分、小池さんが蒲田に到着し街宣が始まった。前説として大田区長の応援演説が始まると、嫌な予感は当たってしまった。大音響のアナウンスを鳴らしながらつばさの党の街宣車が現れた。つばさの党は駐車こそしなかったが、道路を巡回し周期的に演説に接近するので度々演説は聞こえにくなった。区長は話しづらそうにしており、聴衆もその騒然とした雰囲気に眉を潜めた。つばさの党もさることながら区長の演説の内容も極めて自民党的で不快感を覚えたが、柵と厳重すぎる警備に閉じ込められており抗議は憚られた。

大音響を浴びせに来たつばさの党と物々しい警備。地獄絵図。

大音響を浴びせに来たつばさの党と物々しい警備。地獄絵図。

区長が演説を終え、小池さんの演説が始まると辺りは更に騒然とした。私のすぐ隣のアーケードからは断続的に「嘘つき小池百合子」という抗議の声があがり続け、駅側からも時折スピーカーを通したような音で妨害が起こっていた。つばさの党の街宣車も周期的に接近し、大音響を浴びせる。小池さんの話す声はなんとか聞こえるが、あまりにも騒然としておりなかなか内容が頭に入ってこない。内容が分からないなりにも、妨害の音が大きくなればなるほど小池さんも負けじと演説が大袈裟になることが感じとれ、それが恐ろしかった。

耳を澄ませて集中すると小池さんは町工場の多い大田区向けに中小企業支援の話をしていることが分かったが、聴衆の反応は悪かった。「そうだー!」という合いの手が入らないどころか、ここぞというタイミングで拍手さえ起きない。前日に見た蓮舫さんの街宣との温度差に戸惑っていると、小池さんは「傘が揺れてます、ありがとうございます」と付け加えた。私の周りは傘さえ揺れていない白けたムードだった。

1時間前に来て場所を確保したのに、この距離感である。ディズニーのパレードより過酷なのでは…。

1時間前に来て場所を確保したのに、この距離感である。ディズニーのパレードより過酷なのでは…。

そうこうしていると、今度は緑のTシャツを着た支持者と思われる若い男性が、私の隣のほんの少し空いたスペースに割り込んできて、手を伸ばして写真や動画を撮り始めた。「そんなに小池さんのことが好きなら、1時間前に来て場所取りしなよ!」と思いながら、私はイラついた。拍手や掛け声で小池さんを応援すればいいのに、彼は撮影に夢中だった。

小池さんは15分間ほどしっかりと時間をとって演説を行い、その間プロテスター達はずっと抗議を続けた。警察や小池陣営から抗議を止めるようにしばしば圧力をかけられていたが、プロテスター側も動画を撮影して排除されないように対抗していた。小池陣営も警察も強行な排除には踏み込まず、札幌のヤジ排除訴訟で道警が敗訴した成果が伺えた。そうは言っても、リスクを承知で必死で抗議するプロテスター達の行動に私は胸が熱くなった。

柵のすぐ横では、プロテスターと緑色のシャツの小池陣営が一触即発の雰囲気。もはや演説を聞くどころではない。

柵のすぐ横では、プロテスターと緑色のシャツの小池陣営が一触即発の雰囲気。もはや演説を聞くどころではない。

演説の終盤、小池さんは「私に金メダルを取らせてください」(当選させてくださいという意味合い)と聴衆に呼びかけた。記者の質問から逃げ、抗議する市民を黙殺し、報道されないのを良いことに自民党の支援を受ける人。私は小池さんのことをそのように評価していた。オリンピックにしてもそうだ。多くの反対の声を黙殺し、小池さんは自民党の国会議員とオリンピックを強行した。そんな彼女の「金メダルを取らせてください」という発言に私はギョッとし、許せないと感じた。このまま黙っていたら、また黙殺される。私はできる限りの大きな声で叫んだ。

「口だけ小池百合子!警備をやめろ!!」

必死で声を上げるプロテスター達が排除されていないことを確認し「行ける」と判断しての、私のささやかすぎる行動だった。それでも、周りには小池さんの支持者、目の前には警察とSPがいて怖かった。だが、私が一言叫んだ程度では拍子抜けするほどに何も起こらなかった。警備には「こっちでも女が喚いている」という目で見られた程度で、隣に割り込んで私をイラつかせた支援者の男性もビックリはしていたが、見なかったふりをして小池さんの撮影に夢中になることに戻った。

演説が終わると「小池さんがグータッチするために柵の近くに来る」という声が聞こえた。私は「小池さんとグータッチなんて死んでも嫌だ」と思い、あきさんとここさんに「プレスゾーンに誰がきているのか記者を見てくる」と伝え、柵を出た。

プレスゾーンの近くで頭を冷やしていると、まもなく追いかけてきてくれたあきさんが私を見つけてくれて「あそこに、横田一さんと望月さんがいるよ!」と教えてくれた。(あきさんはめちゃくちゃ人探しが上手い。)私は、望月さんの出演するArc Timesが大好きなので「あっ!望月さーん!!」と嬉しくなってつい声をかけた。望月さんは「あの人誰だろう…?知り合い…??」という表情でこちらを見ていたが、こちらがただの一般市民だということが分かると「アーケード側はどうだった?」「駅側はこうだったよ」とフレンドリーに接してくれた。望月さんの隣には横田さんがおり、「横田さん、デモクラシータイムス見てます!頑張ってください!」と伝えると、嬉しそうに微笑んで名刺をくださった。

横田さんはいつもハードボイルドなサングラスをかけていて、素顔を秘密にしている。しかしそのサングラスが雨で濡れて見えにくかったのか、話している最中に藪から棒に私たちから顔を背け、サングラスを外し始めた。それを見た望月さんは仰天して「あっ!横田さん!顔が見えちゃう!」と必死で横田さんの素顔を隠していた。その一連の流れがコントのようで面白すぎて、殺伐とした演説の直後だったが私たちは笑い転げてホッコリした気持ちになった。

そうこうしていると柵の中に残っていたここさんが「グータッチできた!」と興奮した様子で現れた。「どうだった?」と聞いてみると、「グータッチする時に『8年間お疲れ様でした!』と声をかけた。小池さんは顔を背けて行ってしまったから、ちゃんと聞こえたと思う」と話してくれた。すごい!私は遠くから喚くことしかできなかったけど、ここさんは小池さん本人にしっかり「No」を伝えたのだ。カッコいい!

尾形さんも合流し、Arc Timesは演説後解説ライブをやっていた。サポート会員の私には胸熱の風景。

尾形さんも合流し、Arc Timesは演説後解説ライブをやっていた。サポート会員の私には胸熱の風景。

そんなこんなで蒲田の小池さんの演説は無事(?)に終わった。あきさんとここさんとまた絶対に選挙の現場で会おうねと約束し、帰路についた。帰りの新幹線の中、冷静に戻った私は「演説中に私が叫んだことは、果たして最良の選択だったんだろうか」と悩んだ。1週間以上たった今でも、結論は出ない。でも、しばらくはそのグレーな状態でいいんじゃないかという気持ちでいる。申し訳程度に喚いただけの私を権力側が排除することは論外だし、私のことをよく知らない人に一方的に説教される筋合いもないが、民主主義の現場では冷静に自分を客観的視し続けることが大切だと思う。

あきさんとここさんが一緒に演説を見てくれて、本当に感謝してる。いつかまたきっと、選挙の現場で2人に会いたい。

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