東郷町長選挙、漫遊してきた(後編)

観光したり、町のことを調べてみたり、考えてみたり。
まこ mako 2024.06.23
誰でも

「ららぽーと」再び

石橋さんの事務所を後にし、休憩とお昼ごはんを兼ねてららぽーとに行ってみた。東郷町のららぽーとは2020年に開業したまだ新しい巨大商業施設で、行ったことがなかったので覗いてみたかった。前回漫遊した静岡県知事選でも、沼津のららぽーと前の街宣に行った際に店内を冷やかした。私の選挙漫遊は、ららぽーととの縁を感じる。

巨大すぎて全景が撮れないららぽーと東郷。

巨大すぎて全景が撮れないららぽーと東郷。

大型商業施設はたまに行くと楽しいけど、私は人の多い場所や窓のない場所に長い時間いるのがあまり得意ではないので、1時間もいると「もういいかな…」と疲れてしまう。東郷のららぽーとは特に窓が少ないような気がして、3COINSと書店を覗いた後、韓国料理のお店で冷麺を食べて(本当は窓のある飲食店で休憩したかったが、なんか価格が高かった)早々に店を後にしてしまった。

好き勝手文句言ってるけど、冷麺めっちゃ美味しかった。

好き勝手文句言ってるけど、冷麺めっちゃ美味しかった。

私の地元は豊田市なのだが、隣町の東郷は豊田と同じかそれ以上にこれと言って特に何もないのどかな町という印象だった。それが、ららぽーとが1つできると「やるじゃん、東郷」と周囲は湧いた。実際、石橋さんの事務所で話した町議員さんは、ららぽーとができてとても嬉しそうだった。事務所で「ららぽーとの周りってなんかよく渋滞してて、車で行くの大変そうじゃないですか〜?」と私が冗談ぽく話すと、「そんなことない、ちょっと回り道すれば大丈夫」と結構ガチのトーンで反論されたので、ここでは冗談でもららぽーとの悪口は言わない方が良いなと感じた。

東京の人から見たら「何言ってんだ」という感じなんだろうが、地方の町で大型商業施設ができるというのが劇的な変化であるのは間違いない。都会的で美しく画一化された商業施設と、そこに来る幸せで順調そうに見える家族連れやカップル。多分に偏見が含まれた私の目からは、その人たちは「選挙に興味がないどころか選挙があることすらも知らない、投票に行かない人たち」に見えて仕方がなかった。

ハラスメントの報告書を読んでみた

石橋さんの事務所で「前の副町長である近藤さんの対応が不十分だったことが第三者委員会の報告書で指摘されている」と聞いたのが気になっていた。ららぽーとの店を出たとこのベンチで、爽やかな風を楽しみながらスマホで検索してみると、すぐに「井俣憲治町長によるハラスメント事案について」と書かれた東郷町のウェブサイトがヒットした。

そこには、町役場のある職員さんによるアンケート実施に端を発し、メディアへの告発、町議会での審議から遂には町長が辞任に至るまでの経緯が時系列で公表されている。そして、第三者委員会による調査報告書のPDFも公開されている。第三者委員会の委員長は地元 名古屋の弁護士である堀龍之氏。難しい文章を読むのは苦手なのでこういった調査報告書をちゃんと読むのは初めてだったが、読みやすい文章だった。そして、何より想像以上に酷い実態で衝撃的だった。(リンクの報告書には具体的な暴言や行為が記載されているので、フラッシュバックなどの懸念がある方は十分注意してください。)

「町長からハラスメントを受けた」と回答した人が738人中108人。738人のうち400人ほどは町長と普段接触のない学校や保育園の先生らしいので、町長に関係するおよそ3分の1がなんらかのハラスメントに遭っていたことになる。また、「自分以外の誰かがハラスメントを受けているのを見た」と回答した人は、138人。これ、役場の中で町長のハラスメントが蔓延していたということでは…。怖…。相手を見下したり侮辱するパワハラだけでなく、仕事と関係ないキモいセクハラ発言やセクハラ行為、「育休をとるな」と脅すマタハラ発言、物に対する暴力など、多岐に渡る加害は2018年当選の1期目から始まっていた。

当時 副町長だった近藤さんの対応については、以下のように記載されている。

“副町長には、町の行政運営全般について町長を補佐することが求められ、とりわけ、今回のような町長自身のハラスメントに対しては、監視をし、助言する役割が求められるところである。しかし、副町長から聴き取った話では、副町長の認識として、町長が職員に対して不適切な発言をしたことはあったが、ハラスメントに該当する行為はなかったという認識であった。また、町長の不適切発言に対して注意をしたのは、副町長に就任してから今回の問題が発生するまでの間に5回程度とのことであった。副町長自身がハラスメントに対する理解・認識が不足しており、町長のハラスメントに対する対策や措置は、一切取られず、町長のハラスメントに歯止めがかかることはなかった。
報告書27ページ目より

報告書の内容を見る限り、元町長の加害は「長年に渡るどこからどう見てもヤバいハラスメント」だったので、これらを知っていながら「ハラスメント行為はなかった」という元副町長の近藤さんの言い分は通らないと思う。そして、このような報告書が出ているにも関わらず、私が選挙中に近藤さん本人にお話を聞いた際にも元町長を慮るような発言をしていたのは、すごく残念だし、なんなら怒りを覚える。

選挙って、マジで「よりマシな地獄の選択」

こんな感じだったので私が有権者だったら「近藤さんはないわ〜」と判断するが、じゃあ石橋さんだったらハッピーエンドなのかというと、決してそうとも言い切れない。自治体首長の立候補者の常として選挙公報には無所属と書いてあるが、石橋さんは自民党愛知県連青年部所属のバリバリの自民党員である。事務所にいた秘書さんと町議員さんももちろん自民党関係者だし、事務所には片山さつきの必勝祈願の為書きがでかでかと飾られていた。また、「ママ友、パパ友」と街頭演説では言っていた支援者は、「青年部の応援」と事務所で支援者が教えてくれた。

この時期、裏金問題で衆院補選や地方自治体の首長選挙は自民連敗。愛知県でも3区の池田衆院議員が逮捕、県連は9千万円の不記載を刑事告発されている。石橋さんの陣営はうまく自民色を消していたが、そういう組織の関係者をあえて選びたいという人がどのくらいいるのか疑問を持つ。

愛知7区⭐︎

愛知7区⭐︎

また、石橋さんの支援者にハラスメント対策を今後どうしていくのか聞くと、「またその話か」という雰囲気をそこはかとなく感じ、「あれ?」と思った。対策については「当事者にヒアリングを行う」ということをアピールしていたが、知識不足で二次加害に繋がらないかやや心配になった。

選挙は続くよ、どこまでも

東郷町長選挙全体を通して、私が一番残念に思ったのは「元町長のハラスメント行為に対する怒り」というものが、選挙からあまり感じられなかったことだ。「不名誉な形で有名になってしまった」「ゴタゴタで恥ずかしい」という言葉がニュースには飛び交っていたが、「そうじゃなくない?」と思った。私は東郷町民ではないけど、東郷町の運営を担う役場の職員さんが長年の侮辱に苦しめられ、業務に支障が出ていたというのは町民からしたら許せないことなのではないのか?

そして、これは私の憶測ではあるが、ハラスメントは感染する。小さい組織ほど、感染は広まり蔓延する。長年ハラスメントを受けて助けてもらえなかった職員さんたちが、下に下にとそれを連鎖させていないとは決して言いきれないと思う。それを払拭するためにも私が期待していた「ハラスメントは絶対に許さない」という強い言葉を、ついに選挙で聞くことがなかったのが残念だった。

選挙結果は、ゼロ打ちで石橋さんの圧勝だった。投票日は雨だったが、投票率は47.3%で前回を2.5ポイント上回った。批判的なことも書いたけど、石橋さんを始めとしたみんなで力を合わせて、東郷町からハラスメントを絶対に根絶してほしい。街頭演説で感じた石橋さんの熱意で、町を良くしていってほしいと一市民として心から願っている。

東郷町の今後に期待!

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