東郷町長選挙、漫遊してきた(前編)
6月4日、ハラスメント問題で町長が辞職した愛知県東郷町の町長選が告示され、新人2人が立候補した。東郷町は、愛知3区にある私の自宅から容易にアクセスできる距離にあり、6月で気候も良いことから、これは選挙漫遊するしかない!と新車(自転車)を購入し、最終日の6月8日にウキウキウォッチングに出かけてきた。

爽やかな初夏のお日柄、絶好の漫遊日和。
選挙漫遊とはなんぞや?
フリーランスライターの畠山理仁さんが提唱する「美味しいものを食べたり観光をしながら選挙を楽しむ旅」。街頭演説や選挙事務所に行って、立候補者本人や支援者、野次馬の皆さんのお話を聞き、お祭り気分を楽しむ。詳しくは畠山師匠のご著書をどうぞ。
東郷町長選挙とはなんぞや?
東郷町は、愛知県の中部に位置する人口43778人の小さな町。名古屋市と豊田市の中間に位置しており、両市の通勤通学圏として宅地開発が現在も進んでいる。町長選にはいずれも無所属の
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石橋なおきさん(前の町議会議長)
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近藤よしのりさん(前の副町長)
が立候補した。投票日は6月9日なので、選挙期間は5日しかない。短っ!
本記事も、選挙期間中にアップできれば良かったが、こんなに選挙期間が短いんじゃ無理だ。
まずは情報収集
ちゃんとしてる人は恐らく前日までに情報収集をしてから漫遊に向かうのだろうが、私は追い込まれないと準備ができない。というわけで漫遊当日、東郷町に向かう道すがらにあるお気に入りの喫茶店でモーニングしながら、候補者の街宣の予定や事務所の情報をせっせと収集した。
すると、なんと立候補者の2人ともウェブサイトもSNSアカウントも見つからない。しかし、「自転車があるし、まあなんとかなるだろ」という自転車に対する絶大な信頼を胸に、まずは期日前投票所のある東郷町役場に向かった。

とっても立派な東郷町役場。そして候補者全員のポスターがしっかり貼られたエモい掲示板。
期日前投票をする有権者と出口調査員で賑わう役場に着くと、お目当ての「選挙公報」を見つけることができた。選挙公報に事務所の住所や連絡先が載ってないかなぁと期待していたが、残念ながら何も手掛かりはなかった。

一番簡単に「ほぼ全候補者」の主張を比較することができるツール、それが「選挙公報」。
そこで、意を決して期日前投票のスタッフの公務員さんに、自分は有権者ではないと伝えた上で「選挙事務所に行きたいのですが、住所は教えてもらえるものですか?」と聞いてみた。怪しまれるかなぁと思っていたが、公務員さんはとても親切で立候補者の事務所の住所が書いてある紙を印刷して渡してくれただけでなく、役場の玄関先まで出てきて「あそこに見える緑色の看板が近藤さんの事務所で、手前の道をまっすぐ行くと石橋さんの事務所です」と、とても丁寧に教えてくれた。出口調査員の方々の暖かい視線に見守られる中、丁重にお礼をし、まずは近場の近藤さんの事務所に向かうことにした。
近藤さんの事務所に着いたよ〜
立候補者や議員の事務所にふらっと立ち寄る、と言うと「そんなことして良いの!?」とギョッとされるが、元気よく「こんにちは!」と挨拶して入っていけば大体問題はない。(時々無視されたりめんどくさそうに対応されるが、それはそれで相手がどういうスタンスなのかが分かるのでオイシイ。)

めっちゃチルな近藤よしのり選挙事務所。盆踊りが始まってもおかしくない雰囲気。
選挙最終日の近藤さんの選挙事務所は10名ほどのスタッフで賑わっていた。「政策を知りたいので、チラシを頂けませんか」と近くのスタッフさんを伺うと、なんと運良くご本人がいらっしゃるという事でお会いすることができた。近藤さんは、長年役場で公務員として勤めてこられたことを感じさせる穏やかそうな雰囲気で、最終日のお忙しい中をとても丁寧に対応してくださった。政治家に会いに行くと大抵の場合は一方的に向こうの話を聞かされることが多いが、近藤さんはこちらが話す余地のあるペースで話すのが印象的だった。
近藤さんは、力を入れたい政策として優先順位の高い順番に「給食費無償化」「学校体育館へのエアコン整備」「身近な公園のリニューアル」を実現したいと考えていることや、東郷町で生まれ育ってきたので町に対する想いがとても強く、長年勤めている役場のことも町のことも良く知っているのでスムーズに調整ができる自信があることを話してくれた。
前の副町長である近藤さんは、前町長のことも良く知っているだろうと思ったので、ハラスメント問題についても聞いた。すると近藤さんは「前町長は気持ちの面ではやる気のある人だったが」と慮った上で、「使う言葉自体は良くなかった。前町長のやりたいことに対して、役所の人とスピード感などにギャップがあってそういう言葉遣いになってしまったのかもしれない。」と語った。今後の対策については、「ハラスメント対策は、町長がハラスメントをする側になることは念頭になかった。今後は第三者の通報窓口を設置し、相談しやすい環境にしたいと考えている。」ということだった。
石橋さんの街頭演説、最速で発見
答えにくい質問にも答えてくださったお礼と激励をお伝えして近藤さんの事務所を出ると、ものすごく良いタイミングでどこからか街頭演説の音が聞こえてきた。街灯の光に集まる羽虫の如く音のする方に向かう(選挙漫遊あるある)と、役場前交差点前で石橋さんの街頭演説が始まっていた。石橋さんは10人ほどの支援者と共に車に向かって手を振りながら演説を行なっており、聴衆は道路を挟んで見ている私と、その対角線上の交差点にいる関係者風のおじさん2人だった。しかし、町の人々の反応は暖かく、車から手を振って応援する人が何人もおり、クラクションを軽快に鳴らして応援するトラックの運転手さんもいた。

最終日、元気いっぱいの石橋さんと支援者の皆さん。
東郷の町議会議員を3期勤めてこられた石橋さんの演説は、力強く情熱的だった。「せっかく時間とお金をかけて見に行ったのにこれだけしか話してくれないの?」と思った先月の静岡県知事選挙の候補者の街頭演説よりも、30秒で見つけた石橋さんの街頭演説の方が断然良いなと思った。3人の子供を持つ石橋さんは、東郷町のこども達の未来を作りたい、町民が声を届けやすい町づくりを行いたいと語った。公共交通機関の乏しい車社会の東郷町で、道に穴が空いていて危ない、草が伸びて道が狭くて危ない、そういった声をしっかり拾って安全な町づくりがしたいと話しており、経験に基づいた説得力を感じる内容で印象に残った。演説後、石橋さんはこちらに来て握手をしてくれて、忙しそうではあったが2言、3言程度の会話もできた。(静岡県知事選の時は、こちらから近づかない限り相手されなかった。)
石橋陣営は支援者に若い層が多く、一生懸命手を振ってイキイキとアピールしているのも印象的だった。「ママ友、パパ友が手伝ってくれている」と石橋さんは演説で話していた。特に、前説と締めを担当していた石橋さんと同世代の支援者が、井出英策教授(※)を彷彿とさせる情熱的で聴衆の心をグッとつかむ魅力ある演説をしており、石橋さんが良い支援者に囲まれていることも印象付けた。
※小川淳也衆院議員の選挙における、圧倒的に情熱的な応援演説で有名な経済学者。井出教授の方が小川さんよりも多分演説が上手い。
石橋さんの演説現場前を近藤さん陣営の街宣車が通ると、「お互い頑張りましょう!」とマイクで声を掛け合っていて、爽やかな大人の対応に胸熱だった。先日の東京15区補選の人たちにも、是非このスポーツマンシップを見習ってほしい。
せっかくなので、石橋さんの選挙事務所にもお邪魔した
東郷町に着いて1時間も経たず候補者全員に会うことができたが、せっかくなので石橋さんの選挙事務所にもお邪魔した。

石橋さんも負けず劣らずチルな選挙事務所。オープンエアーで気持ち良い。
候補者本人と若い支援者が出払った事務所は、石橋さんと繋がりがある国会議員の秘書の方と町議会議員さんが留守を預かっており、「有権者ではないんですけど良いですか」と名乗る私を熱烈に歓迎してくれた。そして、石橋さんを応援している理由を熱心に話してくれ、投票率が上がらないことをとても心配していた。
秘書さんが特に問題視をしていたのは、前の町長の側近だった前の副町長である近藤さんはハラスメントを止めなければいけない立場であったにも関わらず、その対応が不十分であったことを第三者委員会の報告書で指摘されていること。そんな人が町長に立候補表明したことに危機感を持ち、役場の中から立候補してくれる人を探したが見つからなかった。本当は女性に立候補してもらいたかったがやむを得ず、立候補してほしいという声に応える形で石橋さんが選挙に立つことを決めたとのことだった。政策についても耳心地の良い大きな政策ではなく、これまで後回しにされてきた道路の修繕や学校のトイレの洋式化といった内容で行こうと、みんなで考えて決めたことを語ってくれた。
また、前回町長選挙の投票率は44.8%。選挙が周知されず、前回投票率を割ってしまうのではないかと町議員さんは強く懸念していた。確かに、東郷町に来てから「6月9日は町長選挙投票日」と大きく書かれた看板を乗せた役場の車を何回か見かけたが、車から流れるアナウンスの音声は恐ろしく小さく、歩道にいても何を言っているのか聞き取れないので、もはや音を流す意味はあるのかと感じたことを話すと、「クレームがあるから音を絞らざるを得なかった」と町議員さんは教えてくれた。
東郷町の中でも名古屋に隣接するエリアは新しく移り住んだ若い世代が多く、その一帯は特に投票率が低いそうだ。「若い人こそ投票することで意見を表明してほしい」「たとえ当選できたとしても、投票率が低かったらそれは民意と言えないのではないか」と町議員さんはとても悲しそうだった。
陣営の人たちは30分以上に渡って、有権者でもない私に選挙に対する熱い思いを語ってくれ、どれも興味深く伺った。「お茶は公職選挙法上セーフだから安心して」というエクスキューズ付きで石橋さんのお母さんが冷たいお茶を出してくださり、すっかり居座ってしまった。お話を伺った後に丁重にお礼を伝えて自転車で走り出す私を町議員さんは手を振って見送ってくれた。

途中で見つけた池のあるいい感じの公園。
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